2024年の金融市場における日本の展望について

2024年の金融市場を展望するにあたり、特に注目すべき要素は昨年の市場を大きく動かした米国の経済・物価情勢と金融政策の行方です。米国経済が堅調に推移する中で、物価上昇率は低下傾向を辿ったものの、依然として物価目標(2%)を上回る水準で推移しています。これを受け、FRB(米連邦準備制度理事会)は9月以降、実質的に利上げを停止し、今後の動向を見極める姿勢を維持しています。日本にとっても、これらの動向は重大な影響を及ぼすため、注目せざるを得ません。

2024年の金融市場における日本の展望について

米国経済・物価情勢と利下げ

今年、米国経済は昨年の利上げ効果などから減速し、物価上昇率が物価目標に向けて着実に低下すると見られています。このシナリオが実現すれば、FRBは段階的な利下げを開始するでしょう。利下げが市場で現実味を帯びて織り込まれるにつれ、米長期金利が低下し、日本の長期金利の抑制要因となります。これにより、ドル円相場では米金利低下に伴う日米金利差の縮小が円高ドル安要因となります。

日本株に対する影響としては、米景気減速と円高が逆風になる一方で、米インフレ鈍化と利下げに伴う景気回復期待が米株価を押し上げるため、これが追い風となります。しかし、米景気が急激に悪化する場合、利下げペースが速まり、日本の長期金利への低下圧力と円高圧力がさらに強まるでしょう。結果として、日本株への下落圧力も強まる可能性があります。

一方、利上げの効果が足りず、物価上昇率の低下が遅れる、または再び上昇する場合には、FRBは政策金利を高い水準で据え置かざるを得なくなります。このシナリオでは、利下げの織り込みが後退し、米金利が上昇するため、日本の長期金利には上昇圧力がかかり、ドル高が進行し、日本株は下落する可能性が高くなります。

日銀による金融政策正常化

国内市場に目を転じると、注目すべきは日銀(日本銀行)による金融政策正常化の行方です。日本の物価上昇率が物価目標の2%を大幅に上回る状況が長期化しており、前回春闘での賃上げ率拡大や予想物価上昇率の上昇を受けて、日銀は物価目標達成への自信を強めつつあります。その結果、YCC(イールドカーブ・コントロール)の撤廃やマイナス金利政策の解除といった正常化を視野に入れるようになっています。

今年、日銀が金融緩和の正常化に舵を切れば、日本の金利には上昇圧力がかかります。ドル円相場においては、日本の金利上昇が円高要因となるでしょう。しかし、株価に対しては、金利上昇が追い風になる銀行株を除き、総じて抑制要因になると見られます。

主要国における選挙の行方

2024年は、多くの主要国で国政選挙が行われるため、その行方も注目されます。特に注目されるのが11月の米大統領選です。現在、現職のバイデン大統領とトランプ前大統領が対決する構図が高まっており、トランプ氏の政策の全容はまだ不明ですが、彼が勝利した場合には税・財政、対外政策、移民政策、エネルギー政策といった幅広い領域で現行政策の大幅な転換が予想されます。

このような政策の予見可能性が低下することで、市場が不安定化する可能性が高く、慎重な動向を見守る必要があります。

NISA拡充の影響

最後に注目すべき点はNISA(少額投資非課税制度)の拡充です。今年1月から、旧一般NISAに該当する「成長投資枠」の年間投資枠が旧制度比で2倍に、つみたてNISAに該当する「つみたて投資枠」の枠が3倍に引き上げられました。これにより、家計の投資が促進され、国内株に向かえば直接的な日本株高圧力に、海外株に向かえば円安圧力となり、間接的に日本株にもプラスの影響が見込まれます。

市場の中心的なシナリオ

以上の主要材料を踏まえ、今年の市場動向を中心的なシナリオとして考えると、米国経済の堅調さを支えてきたコロナ禍での強制貯蓄が既に枯渇し、学生ローンの返済も再開されています。また、過去の急速な利上げの効果が顕在化しつつあり、米経済は景気後退こそ避けられるものの減速し、春にかけて低滞すると予想されます。その後は、インフレ鈍化や利下げを受けて、緩やかに景気が持ち直す見通しです。

米国の物価上昇率は、景気の減速を通じて緩やかに低下し、FRBは年の半ばに利下げを開始、以降緩やかに利下げを継続するでしょう。日銀の金融政策については、2024年の春闘での高めの賃上げを確認したうえで、4月に正常化に舵を切ると見られます。YCCの撤廃とともに、マイナス金利政策を解除し、無担保コールレート誘導目標を0~0.1%で復活する見込みです。

しかし、日銀が大幅な金利上昇を促すほど経済・物価について自信を強めることは想定しづらく、あくまで極端な緩和策を取りやめる措置に留まるでしょう。長期金利の上限目途や指値オペの枠組み、国債買入れは継続され、金利の過度な上昇を抑えて緩和的な金融環境を継続させる役割を担うと予想されます。

相場展開の見通し

日本の長期金利は春に日銀の政策正常化に伴って上昇するものの、日銀が金利の抑制姿勢を続けるため、長期的には1%を若干下回る水準を中心に推移すると予想されます。ドル円については、FRBによる段階的な利下げが主因で円高ドル安に向かうと見込まれますが、FF金利先物市場での利下げ織り込みが進んでいるため、当面はドルが高止まりしやすく、一時的にはドル高も予想されます。春以降は利下げの現実味が高まるにつれてドルが緩やかに下落し、緩やかな円高ドル安基調が続くでしょう。年末のドル円相場は1ドル136円前後になると見込まれます。

日本株については、年初の急上昇で割安感がなくなり、米景気の減速感が顕在化するため、一旦下落する可能性が高いです。しかし、春以降は米国の段階的な利下げ織り込みに伴う米株上昇が追い風となる一方、円高と日銀の金融政策正常化が重石となるでしょう。現時点では、年末の日経平均株価は35000円台と予想されています。

結論

2024年も金融市場は多くの不確実性を抱えています。米国の経済・物価情勢や金融政策の動向、日本の金融政策の正常化、主要国での選挙、NISAの拡充など、さまざまな要因が市場に影響を及ぼす可能性があります。これらの要素を綿密に点検し、リスク管理を徹底することが重要です。市場の動向を注視しながら、適切な投資戦略を立てることが求められます。

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